このページはイラストレーターはるまきの、個人的なドラゴンボール版権小説置き場です。鳥山先生、集英社さんとは一切関係ござ いません。
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sound4(前編)


 


 イレーザは夏の朝が好きだ。

  夏の朝はいつも、これから始まる一日の暑さ長さについてのうんざり感、それでも何か明るくて眩しくて浮かれたことが起きるのではないかという期待に満ちている。小鳥はそんな朝の光を貪り食ったゲップのようにピチピチと鳴き、朝もはよから仕事に出ていく人の車の群れは更に陽光を反射しながら浅い川の中の魚のように街の中を泳いでいる。
 イレーザはそもそも朝が好きだった。それはひとの色んな顔がいちどきに見られるからだ。同じ所に向かって歩いてゆく人の群れのなかに、ああ疲れたなという顔、寝不足を隠しもしない顔、それを繕って精一杯にめかしこんでいる顔、昨夜は素敵だったという余韻に浮ついた顔、反対にろくなことはなかったけど今日こそはという顔、今日は面倒なことが待っているという顔、やたらと張り切っている顔、音楽を聞きながらそれらの全てからわずかばかり逃げようという顔、様々な顔が流れている。せいぜい2,3歳違いという人の群れの中にさまざまな顔がある。それらの中にひときわ好みの顔を…異性ならなお良しだけど…探すのがイレーザの朝の楽しみなのだった。

 中でも、夏休み明けのこの1年に一度の朝は面白い。ひさしぶり、ひさしぶり。交わすひときわ闊達な挨拶の中に、その人がどんな夏休みを過ごしたという報告。ああこれからまた学校面倒くさいという声、ひと夏の間の変貌具合に驚く声。サタンシティの郊外、オレンジスターハイスクールがそろそろ見えてきた頃の通学路は、そんな活気に満ち満ちていた。

 「イレーザ、おっはよー。久しぶりね」
 丸い棒付きの飴を口の中で転がしながらひとりその人の流れを楽しみ泳ぐように歩いていたイレーザに、後ろから肩を叩いて級友のひとりが挨拶をしてきた。
 「おはよ。あんた免許は取れたの」
 「もちろん。教官が素敵な人でねー!ううん、それよりよ。イレーザ、知ってる!?ビーデルのことよ。あたし見ちゃったのよ、一昨日家族と遊園地に行って見ちゃったのよ」
 「なに?」
 「ビーデルと悟飯くん!二人で!」
 「へえ」
 「へえって。あんた知ってるの!?あの二人、ついに付き合いだしたってこと!?」
 「そおよ」
 えーっと言う大声に、周りを歩いていた同級の幾人もが振り返った。「やっぱり!?マジで!?悟飯くんとビーデルってばくっついたんだぁ!そうよねー、遊園地で腕組んで歩いてたもんねー!」

  えっ!
 マジ!?
 あのサタンの娘のビーデルが!?

 学校に向かって流れていたキラキラとした川のようだった人の流れの中に、ざわざわと、それが変じてバシャバシャと噂話の波紋が起きた。あらら、とイレーザは青い目をくるくるとしてそのさまを見渡し、なんだか面白いものが見られた、とグロスを引いた唇をにんまりとさせた。その顔に上空から影がさす。見上げると、見慣れた、くだんの人の愛機であるジェットフライヤーのエンジン部。学校へ飛んでゆくその姿を目で追いながら、イレーザはチューブトップの上の裸の肩をすくませ、更ににんまりと苦笑した。

 ご愁傷様。有名人ってのも、大変よね。

 


  悟空は夏の昼下がりが好きだ。鳴り始めた腹に『もうそんな時間か』と修行の手を止め、そこらの水場で顔の汗を洗ってさっぱりとし、その滴が熱っぽい風になぶられつんつんと逆だった髪の毛から青空に払われてゆくのが好きだ。

  こんな晴れた日の夏の風はいい。どこまでも明るく軽やかで、筋斗雲に乗らずとも自分をどこかに連れて行ってくれそうで、闘いを待ち望んでふつふつとする運動後の血潮のように熱い。あの世はいつでもどこでも適温で風の流れも弱く一定の天候だったから、こんな風を受けられるだけでも悟空は生き返ってよかったと思ったりするのだった。
 今日の修行場は家から一山越えたあたり、旧居のある山塊の一隅だ。悟空はプルプルと頭を振って滴を振り払うと、泉のある今まで修行していた高台の際から下に広がる草原を見下ろした。その一隅にはいくらか樫の木が密集して生えている木陰があって、下草の上には赤白青のピクニックシートが涼やかに広げられている。
  悟空はそんな気の利いたマネはしない。今日はそれをしてくれる妻が珍しくついてきている。首を伸ばして姿を探すと、彼女は木陰の向こうで、白い旗袍の裾を割って掲げた薄く細い褌子ばきの脚を木で支えストレッチをしているところだった。

 腹は鳴り出していたしピクニックシートの上にはすでに昼飯の入ったバスケットと皿のセットが用意されていたけれど、悟空はしばらく遠目にその様子を観察することにした。木を支えにしての側圧腿、正圧腿。そしてしなやかに伸脚して深く体を側屈する仆歩圧腿から、足を高く揚げる動作をいくらか。ついで、ノースリーブの白い繊手を掲げて円を描くようにゆっくり旋回させる動作。そしていくつかの型。
 流派に依らぬ功夫の基礎動作的な一連の動きだし、悟空も毎日の修行の冒頭には準備運動がてらよくやるようなことなのだが、女性、というか妻がやるとこんなに優雅に見えるものか、とそおっと舞空術で上空から近づきながら悟空は今更ながらに腕組みをし感嘆した。白い旗袍を翻し動く彼女はこの草原に今も咲いている小さな白い百合の花のようで、武術というよりは舞のような緩急をつけた動きは、その百合の花が夏の風に凛と立ちながら心地よくそよぐ様を思わせた。

  と、彼女はおもむろに馬歩で構えたかと思うと、夏草を分けて助走をつけて高く飛び上がり空中で回し蹴りをいくらか放った。その最中に上空の悟空とたまたま目が合った。合った途端真っ赤になって狼狽してバランスを崩し、なまじ高く舞い上がっていたものだから頭から落っこちそうになった。
 「おっと」
 慌てて虫をすくい上げるツバメのように上空から舞い降りて妻を抱え降り立つと、今ので解けてしまった黒髪の、長く伸ばした前髪の隙間から真っ赤になって妻が恨みがましく見つめ返してきた。
 「ばか。いつから見てただ、趣味の悪い」
 悟空はへらりと笑って妻を下ろしてやった。「さあな。結構最初の方からじゃねえか。んな恥ずかしがることねえじゃねえかよ」
 「待ってる間暇でついしちまってたけど、若い頃に比べたら全然だもの、恥ずかしくって天下一の男の前で堂々披露できるようなもんじゃねえだ。さあ、さっさとお昼にするべ」

 

 昔一人で修行していた頃は昼飯は弁当など持たされずその辺の動物で腹を満たしていたものだったが、生き返ってからというもの次男坊との家族団欒を少しでも長く取るべきという妻の提案で家でなるべくそろって取るようにしている。だが昨日の朝から次男坊は西の都の郊外のブルマの家の別荘に泊まりがけで出かけていて、長男坊も今朝から学校だ。久しぶりに夕方まで夫婦だけなものだから、まずは一戦交えた後弁当を携えてともに修行場までピクニックデートと洒落こんだわけだ。

  「うめえぞ、これ」
 「んだか、旬のものばかりだからな。このトマトソースなんて昨日頑張っていっぺえ作っただよ。隣のばあちゃんにもおすそ分けしたらすごい喜ばれてなあ」
 夏野菜に挽肉を詰めてトマトソースで煮込んだものを頬張りながら悟空が褒めると、妻が苦笑しながらウェットティッシュを差し出す。長男が小さかった頃はしばしば一家でこのように外で弁当を広げていたものだが、死んでいたのもあるし結構久しぶりのことだ。まして二人きりなんてどれだけ久々だろう。長男を妊娠するまでは二人で出かけるとなると『フツーのカップル』を満喫したいという妻の意向で街に行くことが多かったから、実はあまりこういうデートは回数としてはなかったのだった。
 そのせいで妻が、肥満防止にストレッチやらなんやらやってたのは別にして、さっきみたいに本格的に武術をする姿というのも悟空はあまり見たことがない。昔は長男坊の前では妻は自分が武術ができるということをことさら表さなかったものだから。

  「でも悟天にはおめえが武術教えてくれたんだろ?なんでまた」
 そう食後の麦茶を流しこみながら悟空は聞いたが、妻は木漏れ日の下でバツが悪そうに照れ笑いして話題を逸らした。「悟天ちゃんはお行儀よくやってるべか」
 「さあな。まあトランクスと楽しく遊んでんだろ。あいつ最近悟飯に遊んでもらえなくて機嫌悪かったからあっちで目一杯遊んでくりゃいいや」
 「そればっかりじゃ困るんだべ。あっちではトランクス君と一緒に、ブルマさんに勉強みてもらう話になってるんだ。あんまり恥ずかしい真似したら申し訳ねえべ」

  ブルマ一家はブウとの闘いの後、バビディに反逆者だと名指しで告げ口をした輩のせいで世間が何かと騒がしいため、トランクスの学校が新学期になる10月までは休学させて揃って別荘に引っ込んでいるのである。こちらが夏休みにキャンプに誘ったお返しに今回は悟天が向こうに10日ばかり行っていると言うわけだ。今や社長のブルマであるが数日おきに出社する日以外は別荘で報告受けて指示をだすだけでその合間は暇だから、趣味の機械いじりなどをしつつトランクスの先生役もしてやっている。
 「ブルマさんは頭いいからいろんな資格持ってるからな、ちゃんと小学生の先生もできるんだべ。…ああ、でも帰ってきたら悟天ちゃんも7つなんだしお勉強のことちゃんと考えねばなあ。いくら悟飯ちゃんみたいに学者になりたいとか言ってるんでなくても、最低限は。あの子将来なんになりたいんだべか」
 バスケットに食後の片付けも済ませ、妻が脚を崩しながらほう、と溜息をついた。悟空は食休みに赤白青のシートの上に手枕で寝っ転がり、横目でそんな妻を見ていた。解けてしまった髪を新婚の頃のように後ろで一つにゆるく縛っているその横顔は白い服の照り返しと昼下がりの夏の光の逆光で肌の衰えを隠され、未だ穢れを知らぬ少女のようでもあり白い衣をまとった慈母のようでもあった。悟空は、やっぱり生き返ってよかったな、と改めて良かった。神殿であの闘いの折に別れた時には、今度こそもうこのように現世で見ることはかなうまい、と思った妻の姿がすぐそばにある。
  武道会に来る前、そして別れのあの時、どれだけ、ともに連れ帰ってしまいたいと思っただろう。超サイヤ人3になるのを惜しんだのだって、できるならできるだけ長く現世に留まっていたかったからだ。彼女と同じ現世に。セルゲームの際に死んだあの時に自分から手放した道とはいえ。

  ぼーっとそのように思ってると、「もう、悟空さは相変わらず子供の教育に興味ねえんだから」と妻が唇を尖らせて見下ろしてきた。悟空は苦笑して、でも妻はやはり変わったかな、と思う。次男坊に武術を教えてくれたのだってそうだし、長男坊についても昔ほど勉強勉強言わないし、…それになにより、
 「そうだ」悟空は手枕のまま半分うとうとしかけた目で妻を見上げた。
 「ん?なんだべ」妻が手折ったノアザミを白い手に弄びながら見下ろしてくる。
 「オラ、まだおめえに言われてねえよな。…あれ、いっぺんもかな。生き返ってからたぶん」
 「だから何をだべ」
 「働けって、ひとこともさ。前はあんなに言ってたのに、なんでだ」
 紫のノアザミがぴくりと動いて、力を入れたその細い指がトゲをかんで痛そうにした。悟空がそっちに気を取られていると、なんだか涼しいような声が降ってきた。

 「…さあ?そうだったべか」

  涼しい、と言うよりはなんだか氷を飲んだようなその声音に思わずもう一度見上げると、いつもの妻の優しげな百合のような笑顔だった。だが7年離れていたとはいえ悟空は身に染みて知っている。これはなにか自分が彼女の癇に障ることをした時の反応だと。
 白い日傘を掲げて手を振り、陽光の下を山を降りて先に帰っていく妻を風吹く草原で見送りながら、悟空は生き返って3ヶ月で埋まったと思っていた7年の隔絶がまた立ち現れたように思って、足元を波にさらわれたようななんとなく落ち着かない心地だった。青々とした夏草が海のように揺れ音を立てるのと相俟って。足元には毒をはらんだオレンジ色のキツネノカミソリが、青い入道雲の空にむかって伸び、同じように揺れている。
 指の先にはさっき妻が手折ったノアザミが、こんなに細かくとも痛い棘の感触をことさらに主張していた。

 その夜。
 新婚当時からのままの、未だに古めかしい黒い孫家の電話機がリビングでじりりと鳴った。妻も長男もリビングまわりにおらず、たまたますぐ近くの洗面で歯磨きをしていた悟空はあたりを見回して、仕方ないとばかりに泡まみれの口のまま受話器を取りに行った。もともと電話の少ない家だし、最近悟飯にかけてくるようになったビーデルは今日はもう2,3時間前に済ませている。他にこんな遅い時間に電話をしてくるものなど義父の他にはあるまいと思ったのだったが、
 『あら、チチさんじゃないのね。悟飯くん?』
 電話越しのため一瞬誰だかわからなかったのだが、一呼吸後声の主に思い当たった。「何だブルマか」
 『なあに、孫くんなの。悟飯くんかと思った、声似てるんだもの。あの子声変わりしたらホントあんたに声そっくりになっちゃって、あはは』
 「チチに用か?今風呂入ってっけど」悟空は耳元での勢い良い笑い声に閉口して受話器を思わず遠ざけた。耳の良すぎる悟空は耳元で声がする電話というものがそもそも苦手だ。義父のような野太い声ならともかく、高い声、なかんずくブルマのようにけたたましく喋るタイプは特に。
 『そう。ならいいわ、悟天くんは今遊びに行ってるけど元気でやってるって報告だけだから。よろしく伝えといてちょうだいよ。じゃね』
 おう、じゃあなと悟空が受話器を置こうとすると、受話器の中から大きな呼び止める声がする。急いで戻すと、耳元で怒鳴られてまた閉口した。
 『勝手に切ろうとしないでよね!』
 「おめえが先にじゃあって言ったんだろ」
 『あらそぉ?』いつもの言い草で都合の悪いことを惚けた後、ブルマが続けた。『もう9月じゃない。チチさんってもうすぐ誕生日でしょう。なんか欲しがってるものとかないのかしら?』
 「タァサイの種」眠くなってきた悟空は適当に今日聞いたそのままを言った。
 『はあ?』
 「今日スーパーに行ったけど種のコーナーになかったんだと」
 『ばかねあんたは。誕生日にあげるようなもんじゃないでしょうそんなの。まさかあんたいつもそんなもん誕生日に奥さんにあげてるんじゃないでしょうね』
 当たらずも割と遠からずの悟空は泡を含んだ口を膨らせた。黙っていると、ブルマがズバリ核心をついてきた。『まあ稼いでないんだからそんな高いもんあげられないだろうけどさ。サイヤ人ってのは全く。悟飯くんには見習ってほしくないものだわね』

  そうなのだ、戦ってる時ならともかく平時の自分は前と何も変わらず、働きもしないでフラフラしているだけなのだ。あの後帰ってきてから妻が機嫌を直しているようだったので藪蛇になるのも何だと思いまだちゃんと聞いてはいなかったが、なぜ妻はその辺まったく言わなくなってしまったのだろう。少し前からなんかうるさく言わないなとはなんとなく思っていたのだが、昼やっと気づいたように、3ヶ月も経つのにひとことも言わないというのはなんだかおかしな感じだ。
 その辺をかなり端折って悟空は聞くことにした。
 「でもさあ、生き返ってから一回も働けとか言わねえんだけど、あいつ。なんでだろな」

  絶句したような呼吸が受話器の向こうでした。ついでため息。だんだん不安になってきた悟空は小声でおーい、と呼びかけてみた。妻はまだ風呂に入ったばかりだからもう30分は上がってこないが、悟空はだんだんやましいことをしているような気分になってきた。そもそもブルマと電話、いや一対一でこんなにまじめに話していることなどついぞなかったことだからだ。しかもこんな、自分のヨメのことを。
 『あ、あいつが帰ってきた。もう切るわ。よし、分かった。おねーさんに任せなさい。チチさんの誕生日は今年は日曜だったわね、みんなでうちにいらっしゃい、パーティを開いてあげる。あ、ううん、前の日、土曜日からいらっしゃい』
 「え、ってベッソーの方か」
 『ううん、あたしたちももう西の都に戻るからそっちの家に来てよ、今決めた。闘いの後まだ集まってないし、慰労やら、あんたたちの生き返り祝いとか、チチさんのお誕生日やら、悟飯くんのお付き合い記念やら、いろいろひっくるめてパーッとやりましょう。悟飯くんにも伝えておいてよ、ビーデルさんとサタンさんもぜひおいでくださいってね!』

  事情が飲み込めず首を傾げていた悟空の後ろから、急に声がかかった。「誰です?おとうさんが長電話とか珍しい。おじいちゃんですか」
 悟空は思わず受話器を取り落としたが、コードに繋がれたそれを今しがた部屋から出てきたらしい悟飯が落とすすんででキャッチして通話を引き取った。ブルマはそっちに説明することにしたらしく、悟飯も急な成り行きに驚きはしたものの、さすが相談しながら手近のメモ帳に素早くメモをし始めた。悟空は任せることにして口をようやくゆすぎに行った。戻ると悟飯がニコニコしながら、明日の朝飯の時ちゃんとおかあさんにも一緒に説明しますよ、お楽しみになどと言ってきた。

 なんだかおかしな流れになった、と思いつつ結局肝心な部分をはぐらかされた気になった悟空は一人寝室に入りながら大あくびをした。何を任せておけというのだろうか。今朝したところだし今夜は夫婦の営みはもういいか、と思った悟空は先に寝床に入ることにした。タオルケットをかぶりながらうとうとと窓の外の花壇の虫の声を聞く。
 虫の声は、じっと聞いていると自分の心が細く冷たいところに迷い込んでいくようだ。だから悟空は途中で聞くのをやめて、枕に頭を埋め、目を本格的に閉じた。大きな天蓋付きの寝台で、ひとり。

 

 海辺の別荘で、ブルマは午後の波の光のゆらぎに照らされている室内で一人腕組みをして考え込んでいた。息子と悟天は今眼下のプライベートビーチで二人駆けまわっている。
 ブルマは、悟空の妻が働けと言わなくなってしまった理由を知っている。知っているというか、多分いつかひとりごとのように言っていた誓いめいたものを守っているのだ、と思っている。さっきどこぞから数日ぶりに帰ってきたベジータがシャワーを浴びる音がする中、籐椅子の上で一人手近のビールを煽ってため息をついた。

  「ホント、真面目なんだから、あの子は。かわいそうに」



 
 <中編へ続く>





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