「悟飯、おかえり。あんれ、なんだべ皆して…おお、武天老師様、このようなあばら家にようこそおいでくださいましただ!」
翌日一行はカメハウスを後にして悟飯とその母親が今身を寄せている牛魔王の城へ向かった。ブルマはあの冒険のときに焼け跡の廃墟になったこの城を見たことがあって、まだどこかあの熱地獄のおどろおどろしい様な雰囲気を来る前は描いていたのだが、すでにそこは花に囲まれた、夏と言うのに過ごしやすい高原の美しい城になっていて。人と同じで土地も変われば変わるものだとヤムチャや亀仙人と顔を見合わせたりもした。
城の大きな玄関ホールで珍客を出迎えた悟飯の祖父の牛魔王は、城に初めて師匠が来てくれたというので頭を床に擦り付けんばかりにして平伏してついで喜び、早速豪華な昼食の席がしつらえられた。金持ちだとは聞いていたが(自分のうちほどではないにしろ)本当に、普段の地味な暮らしぶりからは想像もつかないくらいに悟飯の母親であるチチは筋金入りのお嬢様なのだ、とブルマは改めて感じさせられた。これでもこの爺さんが城を吹っ飛ばしたせいでだいぶん財産も目減りしただろうというのに。まあそうでなければヒモ暮らしのサイヤ人どもなど養えはしないのだろうけれど。
「皆様若旦那様のお友達でらっしゃるのですね」
牛魔王が女中たちに紹介したのに返ってきたその一言に、悟飯以外の皆が目交ぜして笑いを堪えた。たしかに立場上そうだろうけれども、なんと似合わない肩書きだろうか。
「ところで、今日はどんな御用で?」
「チチが伏せってると聞いての」返答はつつきあった挙句に亀仙人がした。
その言葉を聞いて牛魔王は眉を曇らせた。「ああ、この席にもご一緒できずもうすわけねえです。ただ今もちょっと気分が悪いと部屋で横になっておりまして」
「お医者には診せたんですか」ヤムチャが聞いた。
「昨日来ていただいただ、悟飯が出た後で」
「じゃあ、おじいちゃん、原因は分かってるんでしょう?」
孫のいつになく真摯な視線に牛魔王は戸惑いを露にした。そこに隣に座っていた師匠が耳打ちをした。牛魔王はもう一度孫を見て、笑った。
「ああ。おっかあから、直接聞くがええ。食べ終わったら、皆さん着いてきて下せえ」
2階の、かつての娘の居室を牛魔王が叩扉すると、中から微かな返答があった。先に彼だけが入り、しばらくの後に扉が開け放たれて一行は招き入れられた。調度も少なくさっぱりとした部屋の中、大きな美しいしつらえの寝台の中に、白い寝巻きに上を羽織った、葬儀のときよりさらに線の細くなった彼女が身を起こしていた。
「皆して来てくださったんだか、ありがとう」青白い顔で、それでも彼女はさわやかに微笑んで見せた。夏の日差しが大きな窓から白く鮮やかにその様子を照らしていた。「んだ、おら妊娠しただよ。まさかとは思ってたけど、なあ。悟空さの忘れ形見っちゅうやつだ。どうか産まれたら仲良くしてやってけろ」
「そうしますとも。…ええ、そうします」少し感極まった様子のクリリンが答えた。どうか丈夫な子を産んでください。その言葉に彼女は肯いて見せ、ついで祖父の陰に隠れるようにしていた息子を招き寄せた。
「ゴメンな、心配かけて。んでもって言わねえで。お医者様に診てもらって、はっきりするまでは、と思ってたんだべ。来年の2月にはにいちゃんだ。これからまたいっぺえ、おめえにも負担かけると思うけど」
「…」少年はただかぶりを振って微笑んだ。母親はその頭を撫でようとしたのだが、少年はその手を押しとどめた。それは単に人前での照れというやつなのか、少年なりの背伸びと覚悟の表れかは、はたからは判じかねたけれど。
ふと、ブルマと彼女の目が合ってブルマは心臓をどきりと跳ねさせた。周りの男連中がいかにもどこか幸せそうな様子で祝福の眼差しを送っているのに対し、そうではない自分を発見された気がしたのだ。案の定彼女は言った。
「さあ、おらもう寝(やす)ませてもらうだ。クリリンさん、ヤムチャさん、よかったら悟飯と遊んでいってやってけろ。老師様もごゆっくり。…ブルマさん」
各自がのんきによかったよかったなどと喜びながら部屋を辞していった。ブルマは部屋にひとり佇み、それを見送った。広い窓の外、桜の木に取り付いた多くの蝉がやかましく鳴き競っている。
飾り彫りの椅子を勧められ、ブルマはベッド際にそれを運んで覚悟を決めて腰を下ろした。
「あんまり無茶しちゃだめよ。…わかってたのね」
再び横たわり枕に黒髪を埋めた、あの少年だった男の妻はどこか遠い目をして肯いた。少し開かれた窓から風が通り、窓の白いレースのカーテンの裾と彼女の前髪を少し揺らした。
「もうだいぶん前からそうじゃないかと思ってただ。でも…なあ。だから、これはおらの賭けだったんだべ、酷い話だけど。…おめえさも、旦那が傍にいないで産んだんだから少しは分かってもらえるか、な」
ブルマは少し考えた後、唇を噛んで肯いた。そうだ。たとえそうなってもいいと思って抱かれたとしても、いざそうなってみて不安を覚えないことなんてありえなかった。頼るべき父母に告げるのだってどれだけ迷ったことだろう。いざ相手に告げてみてその上で去って行かれた時の、予想していたとは言えの絶望。自分があんなに弱い人間だと思わされた事は無かった。表面上は笑い飛ばしていたけれど。
決めた道を進むと言い放つのは格好いい。が、その中に迷いや恐れを含まないわけなどない。それを知っているからこそ、人はそれを跳ね除けた顔をしてまっすぐに進む他者に憧れを抱くのだ。そしてその人が隠してなお少しだけ見せてくれるこころに、共感を抱くのだ。
「…いつか言っただな、子供もいねえおめえにはわからないって。あの時はすまなかっただ。でも、今となってみたらこんなの話せるのブルマさんだけだもんな。…大丈夫、診て貰ったけど流産の危険は全然ないそうだから。きっとすごく強い子だべ」
「…もう、ずっとここに居るの?そのほうがいろいろ楽でしょう」
彼女は微笑んだ。「つわりの時期だけはな。悟飯の時よりはましだけど、やっぱり今はしんどいから。でも安定期に入ったらあの村に戻るだよ。悟空さの墓、ほうってはおけねえもん」
「…」
「再婚も、当面はしねえだよ。子育てもあるし。…それに、こんなややこしい事情の後家を拾ってくれるような奇特なひともなかなかいるめえ?」
ブルマの目から堪えていた涙がひとつ零れ出た。顔を覆ったその手に、やさしく細い彼女の指が触れた。何故泣くのか自分でもよく分からなかった。彼女が彼を忘れないのが嬉しいのか、彼女が彼と言う数奇な、秘匿されるべき運命に縛られて抜け出せないのが悔しいのか。…おそらくはどちらもだった。そして、彼女がその両者の中で、産むか産まざるか…流れるか流れないか賭けをするに至ったその心情も。その罪悪感も。それがわかるようになっただけ歳をとって、世間一般の母親と言うものになってしまった自分についても。
「…だから、いつか、悟空さが帰ってくるまでは。おらは、あの家で、悟空さの妻、ずっとやってるだよ」
顔を上げると彼女は続けた。「知ってるべ?占いババってお方。これは内緒の約束だけどな、悟空さ前に、死んでも1回、一日だけ…いつかは分からないけど、おらたちのところへ戻ってきてくれるって言ってくれてるんだ」
「…あっ…」
「だから、おらは、いつかは分からないけど、ずっとそれを待ってるんだ。…これは女同士の秘密だぞ?それまでにおらが他の人のものになったりよそへ引っ越してたりしたら、悟空さ帰って来たときショックだべ?…あのな、だからブルマさん。ドラゴンボールを、集めといてほしいんだ」
「…ドラゴンボール…?でも、地球のじゃ、もう生き返れないって」
「ナメック星のだったら大丈夫だべ?悟空さがいつか帰ってきて、悟飯と生まれた子供を見て、ああ、死ななきゃよかった、生き返って傍にいたいと思ったときに、すぐ生き返らせてあげられるようにな。ナメック星のを貸してもらう為に、連絡せねばなんねえだろ?」
「あ、そうよ!それでよかったのよ!チチさん、頭いい!」
「帰ってくるのいつのことだかわからねえもんなあ。地球のでも探そうと思ったら結構時間かかるし。だから…こんなの、他の望みを叶えたい人からしたらドラゴンボールを独占して酷いことだろうけど。余った願いは誰でも好きにしてけろ」
「…でも、そしたら。…ねえ、今すぐにでもボール集めて、神龍に頼んで、あの世の孫君に子供が出来たから帰ってきて、ってお願いしたらいいんじゃないの?あ、今はまだ石だけど、ねえ、ボールが復活したら、そう、すぐにでも」
「…それは、いいんだ」
「なんでよ!」
彼女は枕の上でしばらく考え込んだ。長い沈黙だった。窓の外では桜の木のそこここ、蝉が命の残り火を散らしながら大合唱を繰り返している。
「おらにだってプライドぐらいあるだ。あんな薄情な男に、こっちから頭を下げて帰ってきてなんて言いたくねえだ。
あのひとは、もうあちらとこちらでは話せないのを分かって覚悟して逝ったんだ。あっちからこちらを見る事はできねえ、でもそれでいいって。だから、あっちから本当に望んで、帰ってくることを決めたり生き返ることをしてくれなきゃ、…意味ねえんだよ。こっちで困ったからって、やすやすともう助けはねだるもんじゃねえ。それが、死別ってもんだべ。そこまで、掟破りの非常識な人間にはなりたくねえんだ…おらも、多分、悟空さも」
ブルマがカプセルコーポレーションに一人帰りついたのは、西の都の日もすっかり暮れた頃だった。庭にフライヤーを下ろし、荒い手つきでドアを酷い音を立てて閉め、そのままカプセルにしまいもせずにまっすぐに子供部屋へと向かった。
生真面目に過ぎるあの少年の妻が酷く苛立たしかった。こんな時に正論を吐いてどうなるのか、と酷く腹立たしかった。なにを、あいつをわかりきった顔をして、と。だからあの場でも馬鹿だとなじったのだ。
彼女は顔を覆い泣いた。なじった癖に罪悪感に駆られて彼女をそっと抱きしめ詫びる自分が愚かで悔しかった。彼女は嗚咽の下、か細い声で言った。本当に、あのひとが心からそう望んで生き返ってくれたなら、もう何も望まないのに、と。
出迎えるロボットたちを尻目に、ひたすら息子のいるであろう子供部屋を目指した。顔が見たくてたまらなかった。
「あら、ブルマさんおかえりなさい。楽しんできてらした?」
階段の途中で母親が気づき声をかけてきた。ただいま、とそっけなく返事をし母親が後に何か続けたのも聞かず追い過ごしていった。
「トラちゃん今おねむよ。あ、それからねえ」
扉を開けると、照明を落とした大きな部屋の片隅、ベビーベッドの上に息子は安らかな寝息を立てていた。しばらくその脇で立ち尽くして寝顔を眺めているうち、肩にかかっていた鞄がずり落ちて、静かに床に下りた。ただいま、と静かに呟いた。夏の夜、空調も抑え目にした部屋は柔らかくしっとりと暖かかった。
幼子の柔らかな頬にそっと触れた。なぜに子供と言うのは、こんなに心を和らげてくれるのだろう。自分は育てる環境に恵まれているからそんな暢気な感想であるのかもしれない。ひとり親で、母子で暮らしていけば、そんな悠長な感想は抱いていられないのかもしれない。でも、それでも、生まれてくる子供がこのように彼女の慰めになれば、と思う。衷心からそう希(こいねが)わずには居られなかった。
「どこに行っていた、息子を放り出して」
そのように哀しく温かい気持ちに浸りきっていたところに、不意に背後から声がした。驚いて振り向くと、部屋の反対側の隅、ソファから立ち上がった人影がじっとこっちを睨みつけている。
その人影はゆっくりとこちらに近づいてきた。
「…あんたに言われたくないわ」
「なんだと」
「あたしは2日だけ、ちょっと羽を伸ばしてきただけよ。あんたなんか2ヶ月も、ううん、この子が生まれてからずっと放り出しっぱなしじゃないの!」
「サイヤ人の男は子育てなどせんのだ」
その言葉にかっとなってブルマは思わず相手の…ベジータの頬を平手で打ち据えた。見事打ち据えた。てっきり避けられると思っていたので動揺したのだが、それを隠すように言い募った。
「ホント馬鹿な人種よ!孫君といい、あんたといい。子供も何もかも放り出してさ。種蒔くばっかりで。サイヤ人の女もさぞ苦労したでしょうよ!気の毒ったらありゃしないわ!」
「静かにしろ、ガキが起きる」
「…」わめきかけた唇をブルマは噛んだ。窓の外でなにかのクラクションが鳴って、遠くで救急車のサイレンが夏の重い夜の大気を掻き分けていく。ブルマは目の前にした、2ヶ月ぶりにまともに顔を見た相手を睨みつけようとした。したのだが、目に涙の膜が張って顔をうまく上げていることが出来なかった。相手はそんな彼女の様子を黙って見ていた。黒いタンクトップにトレーニングパンツと言う砕けた格好で。その身体は少し痩せたようにブルマには見えた。全身を覆っていた覇気が、なにか別のものに一部転化してしまったように思えた。
「…チチさんが、妊娠したのよ。孫君が、遺していったのよ」
相手の目が見開かれた。
「ホント、種蒔くばかりでさ。どうしようもない馬鹿よ。挙句手の届かない場所に行っちゃうのよ。…あんたもまたどっかに行っちゃうんでしょう。またすぐ」
目にかろうじてとどめていた涙がそこで決壊した。なすすべもなく嗚咽を繰り返していると、その頭上から腕がゆっくりと頭を抱え込んだ。驚いたブルマはまだ手の中に抱え込んでいたレーダーを取り落としてしまって、それはじゅうたんに落ちて鈍い渇いた音を立てた。それに重なるように、微かな声が耳元でした。
「嘘よ」
「…嘘などつかん」
「信用ならないわ」
「勝手にそう思っておけ」
胸板の上でブルマは長いため息をついた。認めようとするこころと認めまいとするこころが背筋の上でまだ鬩(せめ)ぎあっている。身を許すまいと儚い抵抗をしている。
セル戦の前少しこの家にこの男が滞在していたとき…未来から来た息子と、そして今のこの小さな息子と一緒の空間に居たとき、ブルマは心のどこかでひそかに期待したものだった。戦いが終われば、この男がこの家にまた居つくのではないかと。だがそれは裏切られたのだ。葬儀が終わるとこの男はこの家から姿を消していた。
ひょっとしたら、ずっとこの男が目標にしていたあの男を失って、地球に居る意味もなくして何らかの方法で宇宙に帰ってしまったのではないかとも思っていた。今は宇宙船はもう…あの男が帰ってきたときに乗ってきて社で保存している一機しかないが、自分の知らない通信手段かなにかで昔の仲間かなにかに連絡を取ってどこかに行ってしまったのではないかとすら思っていたのだ。
だってこの男は、ひたすらにあの男に勝ちたい、戦って叩きのめしたいが故だけにこの星に居たのだから。それを亡くした今、全てを見下しているこの星になんの価値があろうか。そうでないなら、どういうことなのか。
「…あんたも、強くなるのを諦めたの。人生楽しもうって気持ちなの」
前よりも痩せた様に思う胸板に涙と鼻水を擦り付けてブルマは聞いた。相手が一瞬動揺した、ように感じた。ブルマは顔を上げて怒鳴った。
「もう孫君と戦うこともない、だから鍛えても無駄だって思ってるの。そんなのあんたらしくないわ。あれだけサイヤ人は強さを追及する民族だって威張ってた癖に。そんな風に思ってるんなら出て行ってよ。そんなへなちょこの弱虫、トランクスの父親には相応しくないもの!」
その声にベッドの上の息子が目覚め、たちまち大きな声で泣き始めた。それを抱き上げ、少しでも男から遠ざけようとすると、男は咄嗟に手を伸ばした。伸ばして、その自分の行為に戸惑ったように一瞬その手を見た。ブルマは、泣き叫ぶ息子の、汗ばんだしっとりした頭を抱いて男から遠ざけようとしながらなお怒鳴った。ああ、あの話を聞いたときの、自分でも酔いにまぎれてよく分からなかった哀しさの正体はこれだったのだと今更ながらに悟りながら。
「あたしはあんたが好きなの。そういう、馬鹿みたいに強くなろうと夢中なあんたが好きなの、孫君に負けたくないってうじうじしてるあんたが好きなの!だから、癪だけど教えてあげるわよ。孫君はいつか、この世に一日だけ帰ってくるわ。チチさんのところに帰ってくるのよ。そこで勝って見せなさいよ。でも少なくともその日までは!」
続きはすぐには言葉にならなかった。体温に飲み込まれたその言葉はしばらくしてじゅうたんの水色の毛足に水滴のように幽かに零れていった。身体を揺すり上げられるごとに。
彼女は自分が月明かりに波を打つ海になったように思った。
波打たせる男は、口にこそ出来なかったが、彼女のことを故国でいうところの、旧き神話の月の女神のようだと感じていた。男を狂わせ、絶大な力を与える美貌の戦いの女神のように。
明けて目覚めたときには、彼女は自室の寝台の上だった。枕元には緑色の液晶のレーダーが鈍い光を放っていた。部屋は彼女一人だった。出かける前となんら変わらない、無骨で、子供のものの散乱した部屋。
なんだか、長い夢から覚めたような気分だった。ひょっとしてやたらとナーバスだったこの数日が夢だったのではないか、とすら思ったのだが、素裸で起こした体に残った所々の充血が、やはり現実であることを教えている。
疲れてたのよ、きっと。
そう結論付けてひとつ伸びをしてガウンを羽織り、隣室のまだ寝ている息子の様子を覗いてから洗面に向かった。その帰り、長い廊下の途中、ある角で彼女は足を止めて扉の脇のパネルを見た。久しぶりに動作しているその重力の表示を。
彼女はひとつ微笑んだ。そしてその報告の電話を新しい友人にかけるために自室に戻っていった。週末の朝、窓の外、訪れ来た本格的な夏を惜しむように、朝っぱらから蝉が鳴き騒いでいる。庭で、犬たちが父親と朝の散歩を楽しんでいる。
電話に出たのは少年の声だった。「今育児書で勉強してるんですよ」と明るい口調の後、優しいクラシカルな保留音が受話器の向こうに流れてきた。
夏が過ぎ秋が過ぎ、冬、息子が初めての誕生日を迎える頃には、月満ちて新しい生命も生まれてくる。
願わくはそれまで、このまま、あの男がとどまってくれているように。
そして、皆が、新しいなにかをその手の中に見出せるように。
そう、願わくば、時の果て、遠い未来に、あの男に誇れるだけの幸福をそれぞれがその手に乗せて生きてゆけるように。
どこまでも活き活きと、そして、どこまでものびのびと。
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